ユサブルコラム

2010年06月24日 佐々木 知子 , 寄り道シネマ

私にも試合を見せて!「オフサイド・ガールズ」

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 イランのジャファル・パナヒ監督作品「オフサイド・ガールズ」は、スタジアムで男性スポーツの観戦を禁じられたイランの女の子たちの勇気と希望の物語だ。
 
 イランでのサッカー人気も欧州に引けを取らず、ワールドカップ出場の際などは国中お祭り騒ぎになるそうだ。当然、観戦中も熱気むんむんで、選手のミスなどあろうものなら、男性サポーターたちの凄まじい罵声やブーイングが飛び交うのだとか。そのようなことから、スタジアムに女性が居るのは好ましくないとされ女性の入場が禁止された。イランでは、サッカー観戦に限らず、様々な場所で男女が一緒に居ることを禁じる規制が設けられている。
 


 さて、そんなことを背景に、この映画では、スタジアムに入れない女の子たちを男装で潜入させようというのだ。

 彼女たちは、様々な工夫を凝らして潜入を試みる。私は、この映画を3年ほど前に観た。何ともチャーミングな彼女たち、当時を思い返し、あの魅力は何だったろうかと何度も考えていたところ、彼女たちはプロの俳優ではなかったと今になって知った。あのぎこちなさとひたむきな感じは、そんなところからも生まれていたのかもしれない。イラン・チームのゴールに見張りの兵士も少女たちも一緒になって、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいる姿は、こんな状況でそんなに喜べるということが、徴兵で嫌々制服を着ている兵士たちも少女たち同様一般の若い一市民なんだなあと思わせて、逆にリアリティが生まれている。
 
 この映画の撮影は、実際のワールドカップの試合の最中に行われたそうだ。女性禁止のスタジアム内に、ちゃっかりと女性出演者を連れて行って撮影してしまうあたり、監督と男装少女たちの度胸を比べてしまったりする。私としては、やはり、少女たちの度胸に軍配を上げたくなるのだが…。
 
 軍服を着て男装した女の子に、「きゃ〜、凄〜い」と、わいわいとはしゃぐ彼女たちの喜びよう、こちらが不安になるほどの楽観ぶりである。軍服という絶対権力を女性が身につけるという最高の反逆を、かわいらしい女の子たちの興奮の中にしまい込んだのではなかろうか?

 また、徴兵された若い兵士たちにもためらいが見て取れる。全てを説明しきれないのだ。男女が一緒に居てはいけないと思う心は、きっと男性だからこそ知っている欲望を抑えようとする素直なものだろう。トイレを我慢できなくなった少女を、男性用しかないスタジアムのトイレに兵士が連れて行くシーンなどは、必死にトイレで男女を一緒にすまいとする兵士が、逆に哀れになってくる。法規制の果てにまじめにこんなことをしなくてはならない滑稽さはどうだろう。監督は少女たちと同じだけの人間味で兵士たちを描いている。

offside2 スタジアムから警察に移送されるバスに乗り込む際、爆竹所持で拘束された少年が「逮捕は我慢するけど、この子たちと一緒にしないで、恥ずかしいから」という。「男の子は青」「女の子は赤」程度に刷り込まれた感覚だろう。
 しかし、バスにラジオのサッカー中継が流れると、また男女一緒にきゃ〜きゃ〜と大騒ぎで、みんなで興奮を共有するのだ。
 
 ストーリーには、要所要所に、少しずつ政治的なトピックがちりばめてあるが、意図的な悪は存在しない。全てが、体制と慣習から派生していて、個人がその中で自分の役割に努めているのだ。その彼らを、サッカーでつなぎ合わせている。しかも、サッカーシーンを一つも見せずに、少女たちと兵士の熱狂ぶりをこちらにまで伝染させる。

 彼らが、すぐに喜んでしまうところは、本当にチャーミングなのだ。


 
残念ながら、この映画はイランではまだ公開されていない。そして、ジャファル・パナヒ監督は、この後、イラン政府に拘束されてしまったが、今年5月末に釈放されたと聞いている。これを機に、映画を公開し、イランの人々にもあのキュートな少女たちとともにワールドカップの興奮を味わって欲しい。
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