ユサブルコラム

古くて新しいキューバのフィーリン

 手前ミソな話ですが、当方が細々と渋谷で営むエル・スール・レコーズの開店10周年を記念するつもりで、この秋、CD『フィーリンの誕生』(EL SUR RECORDS 001)を発売しました。
それは、キューバの“フィーリン”と呼ばれる音楽の創始者、ホセー・アントニオ・メンデスという人の1950年代半ば頃に録音されたデビュー作です。
 フィーリンという音楽は、例えば、ブラジルで言うならボサノーヴァにあたるような音楽です。そしてホセー・アントニオは、アントニオ・カルロス・ジョビンとジョアン・ジルベルトをあわせたような存在と言えるかも知れません。北米に起こっていた新しいジャズの影響を、いち早くキューバのバラード系音楽“ボレーロ”のスタイルに取り込み、自ら作曲しギターを弾き語り、それまでのキューバ音楽になかった新しい歌謡音楽の流れ、フィーリンを生み出した才人でした。例えば、ブエナビスタで有名なオマーラ・ポルトゥオンドは、そのフィーリンが生み出した最高の女性歌手の一人です。長らくメキシコで活躍したホセー・アントニオの数々の名曲は、キューバのみならず、多くのラテン系歌手がカヴァーしています。古くはメキシコのロス・トレス・ディアマンテス、近年ではプエルト・リコ出身の大スター、ルイス・ミゲルが、ともにホセー・アントニオの代表曲「至福なる君」を歌い大ヒットさせました。この曲を含む『フィーリンの誕生』は、今日聴いていただいても新鮮でクールな感触のラテン・バラード集だと思います。
 残念ながらフィーリンという音楽は、キューバにおいて1970年代頃から、シーンの変化に吸収されてしまう形で目立たぬ存在となってしまいましたが、その水脈は近年の新しいキューバ音楽シーンにおけるフィーリン・リヴァイヴァルまで、脈々と受け継がれています。ボサノーヴァと同様、時代を超えた新鮮さを保つフィーリンの、世界初復刻CD『フィーリンの誕生』、古くても、新しい音楽があることを知っていただけたら、と思います。(原田尊志)

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ホセー・アントニオ・メンデス『フィーリンの誕生』
2940円(税込)
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